マインドフルネスにおける「呼吸の扱い方」

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著者は、トラウマセンシティブな実践において、

呼吸は非常に有効なリソースになり得る

と述べています。

ただし、ここでの呼吸は

「必ず呼吸に集中しなさい」

という意味ではありません。

呼吸は覚醒レベルを調整できる

呼吸には、

覚醒レベル(arousal)を

  • 上げる
  • 下げる

両方の働きがあります。


そのため、

耐性の窓へ戻るための調整手段として使える場合があります。


過覚醒の場合

不安・緊張・焦り・過警戒

などが強い時は、

ゆっくり 深めの呼吸 長めの吐く息

などが、神経系を落ち着かせる助けになることがあります。

低覚醒の場合

無気力・ぼんやり・シャットダウン・解離

などが強い時は、

少し呼吸の強度やペースを上げることで、
覚醒レベルを回復できることがあります。

呼吸は万能ではない

呼吸をやり過ぎる危険

例えば、

呼吸を極端に変化させると、
耐性の窓から外れてしまうことがあります。

実例


ある慢性的な低覚醒状態の男性が、
覚醒度を上げようとして

夜に床へ横になり、10分間、大きく深い呼吸を続けました。

すると一時的には
活力、生き生きした感覚が出ました。

しかし結果として、

耐性の窓を超えてしまい、

その晩は

過覚醒、落ち着かなさ 

が続いたそうです。

著者の結論は、

呼吸は薬ではなく調整ツール

ということです。

人によっては適さない

さらに、以下のような人では注意が必要と書かれています。

  • 心疾患
  • 喘息
  • 肺気腫
  • 糖尿病
  • 片頭痛

など。

呼吸法は、全員に一律で勧めるものではなく、
その人の状態に合わせて使うべきだとしています。

人によって耐性の窓の広さが違う

ある人は

刺激に対して比較的安定していられる。

別の人は

少しの刺激でも過覚醒や低覚醒へ傾く。

一言でまとめると、

呼吸は耐性の窓へ戻るための有力な資源だが、やり過ぎれば逆に窓から外れることもある。

とにかくリラックスすることではなく、耐性の窓の中にいること

呼吸は今どのあたりにいるかを確かめながら、少しだけ調整するためのツール

通常のマインドフルネスでは、

呼吸がアンカーとして使われることが多い。

アンカーとは、注意がさまよったときに戻るための基準点です。

例えば、

  • 鼻を通る空気
  • お腹の上下
  • 呼吸の感覚

などです。

しかし、呼吸は中立ではない

著者はここで重要な指摘をします。

一般的には「呼吸は中立的な対象」と考えられています。

しかしトラウマサバイバーにとっては、
必ずしもそうではありません。

ディランの場合、

呼吸に注意を向けると、
高校時代の恐怖体験がよみがえりました。


例えば、

  • 廊下を歩いている時の緊張
  • 胸の締め付け
  • 動けなくなる感覚

などです。

つまり、

呼吸がアンカーではなく、
トラウマへの入り口になってしまっていました。

安定化アンカー(Stabilizing Anchors)

そこで著者は、別のアンカー

耐性の窓の中に留まりやすくする対象を提案します。

これは人によって違います。

例として、

  • 手の感覚
  • 足裏
  • 椅子との接点
  • 部屋の光
  • 窓の外の景色
  • ペット
  • 心地よい音

など。

つまり、アンカーは

呼吸でなければならない理由はない。

重要なのは、神経系が安定することです。

自分にとって安定化するアンカーを見つける

だから、

「正しいアンカー」を探すのではなく、

自分にとって安定化するアンカーを見つける

ことが大切だと言います。

アンカーの目的は集中力を高めることではなく、
神経系を安定させることである。

アンカーは人それぞれ

ディランに合ったアンカー(安定化アンカー)が紹介されています。


呼吸は彼には強すぎました。

そこで著者は、

より中立的な対象を探します。


例えば、

  • 首の後ろの感覚
  • 鳥の声
  • 外の交通音

など。

ディランは特に、
鳥の声や外の音が役立ったと言います。


著者はあらためて、

「アンカーは呼吸である必要はない」と強調しています。


例として、

  • 足裏
  • お尻と椅子
  • 背中
  • 視覚
  • 匂い

などが挙げられています。

アンカーは「ホームベース」

ディランは、

自分のアンカーを

home base

(ホームベース)

と呼んでいました。


注意が不安やトラウマへ引っ張られたら、戻る場所がある。

野球で言えば、安全塁のようなものです。

著者は、

トラウマセンシティブな実践では、このホームベースを育てることが重要だと説明しています。

そうやって

トラウマ刺激へ固定された注意を、
別の場所へ移せるようになることです。

呼吸が苦しくなるなら

例えば、

呼吸への注意で

  • 不安
  • パニック
  • 圧倒

が強まるなら、

目を開けてよい

と言います。

そして、別の対象へ注意を向ける。

例えば、

  • 部屋の色
  • 椅子
  • 足裏

などです。

ディランの例

著者と話している最中、
ディランは突然遠くを見つめ始めます。

そしてこう言います。

「何も感じられない」

「あなたのことも感じられない」

「氷山の上を漂っているみたいだ」

これは典型的な

解離

あるい 低覚醒 のサインです。


著者は、そのまま内側を探究させませんでした。

代わりに、

穏やかに、しかしはっきりと こう促します。


足を感じてみよう

床を感じてみよう

何か別のものに注意を向けてみよう

つまり、

解離の中を掘り進めるのではなく、
今ここへ戻る方向へ誘導したのです。

耐性の窓を維持するための
トラウマセンシティブな注意調整法

「注意は固定しなくていい。必要なら戻していい。」

という、とても優しい実践原則だと言えます。

参考図書:Trauma-Sensitive Mindfulness: Practices for Safe and Transformative Healing (English Edition) David A. Treleaven  (著)

日本語訳もでています>>トラウマセンシティブ・マインドフルネスー安全で変容的な癒しのために デイビッド・A・トレリーヴェン (著)