マインドフルネスはストレスを減らすはずなのに「なぜ人によっては逆に苦しくなるのか?

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David A. Treleaven が実際に受け取ったある相談メールから話が始まります。

ニコラスの体験

ニコラスは高校教師で、
不安の軽減のために
マインドフルネス瞑想を始めました。

最初は非常に効果的でした。

  • 頭がクリアになる
  • 集中力が高まる
  • 落ち着きが増す
  • 安心感が育つ

など、多くの恩恵を感じていました。

ところが続けるうちに、奇妙なことが起き始めます。

瞑想が怖くなった

瞑想の終了ベルが鳴ると、
アラームを止めようとしても身体が動かなくなる。

まるで身体が凍りついたような感覚です。

さらに瞑想を続けると、

目を閉じた瞬間に

  • 割れたガラス
  • 開いた空

などの映像が突然浮かぶようになります。

夜は悪夢を見るようになり、
日中も強い不安や恐怖が続くようになりました。

原因は数年前の事故だった

著者 David A. Treleaven  が話を聞くと、

数年前にニコラスは大きな交通事故に遭っていました。

事故の際、車内に閉じ込められ、
救助を待つしかない状態だったそうです。

しかし本人は、

事故そのものよりも
「なぜ瞑想でこんなことが起きるのか」

が理解できず混乱していました。

著者は心理療法家として、
こうした話を何度も聞いてきました。

ここで重要なのは、

マインドフルネスが悪いのではない

トラウマの影響を十分に理解しないまま瞑想を行うと、
予想外の反応が起こることがある

ということです。

「マインドフルネスはストレスを減らすはずなのに、なぜ人によっては逆に苦しくなるのか?」

著者は、

その答えを

「トラウマとマインドフルネスの関係」

の中に探ろうとしています。

このニコラスの体験は、ポリヴェーガル理論で見ると非常に興味深いです。

瞑想によって外界への注意が減り、内側へ向かうことで、
普段は抑えられていた事故時の

  • 恐怖
  • 無力感
  • フリーズ反応

が表面化した可能性があります。

つまり、

瞑想が問題を作ったのではなく、
もともと神経系に残っていた未消化の体験が浮上した

という見方です。

マインドフルネスは万能ではない

著者はまず、

トラウマを経験した人にとっては、
マインドフルネスが時に

  • フラッシュバック
  • 強い感情の高まり
  • 解離
  • 身体感覚への圧倒

などを引き起こすことがあると述べています。

つまり、

一般には安全で良いものと思われている瞑想が、
場合によってはトラウマ反応を活性化することがある

ということです。

ニコラスの事例は特別ではなく、多くの人に起こりうると説明しています。

それでもマインドフルネスには大きな価値がある

一方で著者は、

マインドフルネスを否定しているわけではありません。

研究によれば、

マインドフルネスは

  • 身体感覚への気づきを高める
  • 注意力を高める
  • 感情調整を助ける
  • トラウマ回復を支える

可能性があると述べています。

つまり、

危険だからやめようではなく、
安全に行う方法を考えよう

という立場です。

人口の約90%が人生で何らかのトラウマ的出来事を経験する

著者はここで興味深い数字を挙げています。

推定では、

  • 人口の約90%が人生で何らかのトラウマ的出来事を経験する
  • そのうち8〜20%がPTSDを発症する

とされています。

そのため、

マインドフルネスを教える場には高い確率で
トラウマの影響を抱えた人がいる

ことになります。

だからこそ、

瞑想指導者やセラピストは
トラウマへの理解が必要だと主張しています。

ここで著者は本書の目的を明確にしています。

それは、

トラウマサバイバーへの危険性を最小限にしながら、
マインドフルネスの恩恵を最大限に活かすこと

そのために、

マインドフルネスとトラウマの関係を理解し、
安全な実践方法を紹介していくと述べています。

著者自身の「トラウマの発見」

著者自身がカナダ・バンクーバーで
心理療法家として働いていた頃の話です

彼は、

  • 性や関係性の問題
  • 修復的司法(誰が悪かったか、どんな罰を与えるかではなく、「誰が傷ついたのか、どうすれば関係やコミュニティを修復できるのか」に焦点を当てる考え方)
  • 心理療法

に関心を持っていましたが、やがて自分自身が

  • 燃え尽き
  • 感情的な不安定さ
  • ストレス

を経験するようになります。

そして、そのことがマインドフルネス実践へと向かうきっかけになったことが語られ始めています。

瞑想リトリートで起きた「解離」

マサチューセッツ州のサイレント・リトリートに参加した際、突然異変が起きます。

過去の性的暴力体験について考えていた時、
「ふっと身体から離れたような感覚」になり、
自分自身を上から見下ろしているような状態になります。

周囲は変わっていないのに、

自分だけが現実から切り離されたように感じたのです。

パニックと解離

著者は

  • パニックに襲われる
  • 身体が動かない
  • 現実感が薄れる

という状態になります。

しかし当時は、

「瞑想を続ければそのうち通り過ぎるだろう」

と思い、そのまま実践を続けます。

リトリート後も続く不調

リトリート後の一週間、

彼は

  • 世界がぼんやりする
  • 地に足がつかない
  • 感覚が鈍る
  • 食欲がなくなる
  • 何か大切な自分の一部が消えてしまったように感じる

状態になりました。

ここは典型的な

解離(dissociation)

の描写に見えます。

しかし、リトリートの指導者たちは繰り返し

「注意深く観察してください」

「プロセスを信頼してください」

と伝えていました。

著者もその通りにしていました。

しかし結果として、
状態は改善しませんでした。

「DISCOVERING TRAUMA(トラウマの発見)」

帰宅した著者を見た友人や家族は、
彼が以前より悪い状態になっていることに気づきます。

著者自身も

  • 混乱
  • しびれたような感覚
  • 日常生活への復帰困難

を感じていました。

そして人に話した時に初めて

「それはトラウマ反応ではないか」

と言われます。著者はそれまで、

トラウマとは

  • 戦争
  • 暴力
  • 大災害

のような極端な体験だけだと思っていました。

しかし学びを深める中で、

トラウマとは出来事そのものではなく、
その出来事が神経系や身体に残した影響である

瞑想によって、今まで気づかなかったトラウマ反応が表面化することがある

という理解へ変わっていきます。

そうやって、自分自身にも
トラウマの影響がある可能性に
初めて向き合うことになります。

セラピーによる変化

著者は様々な心理療法を経験します。

  • ユング派
  • 認知行動療法
  • 精神力動的アプローチ

などです。

そこから多くの洞察を得ますが、
特に大きな変化をもたらしたのは

トラウマワーク

だったと書いています。

ソマティック・エクスペリエンシングとの出会い

ここで著者は、

Peter Levine が創始したSomatic Experiencing 
(ソマティック・エクスペリエンシング 以下SE)

を学び始めます。

SEから学んだのは、

  • 身体がトラウマにどう反応するか
  • 神経系がどう保護反応を起こすか
  • 安全にトラウマと向き合う方法

でした。

著者は、この学びが自分の実践を大きく変えたと語っています。

しかし何かが足りなかった

ただし著者は、

SEや当時のトラウマ理論にも限界を感じます。

なぜなら、

そこでは主に「個人の身体や神経系」が扱われていて、

一方で、彼自身は政治活動にも関わっており、

  • 差別
  • 抑圧
  • 社会構造

とトラウマとの関係にも関心を持っていましたが、

その部分は十分に語られていなかったのです。

新しい視点との出会い

社会活動家・教育者・臨床家である
Staci Haines の仕事に出会ったことが語られます。

彼女は、トラウマを

・個人の問題
・身体の問題

としてだけでなく、

社会システムや権力構造との関係の中で理解する

そのような視点を提供していました。

著者はここにずっと探していた

個人の癒しと社会変革をつなぐ橋
トラウマは個人の神経系の問題であると同時に、社会との関係の問題でもある

を見つけたと感じます。

著者の関心は

瞑想 → トラウマ → 身体 → 神経系

へ進み、さらに

社会・文化・権力構造

へと広がっていきます。

つまり

個人が癒されても、
傷つきを生み出す環境が変わらなければ十分ではない

という視点を加えています。

著者は、リトリートでの自身の体験の後も
マインドフルネスへの関心を失いませんでした。

むしろ、

  • マインドフルネスは本当に効果があるのか
  • 自分の体験は例外なのか
  • 他にも同じような人がいるのか

を調べ始めます。

すると研究によって、

マインドフルネスには

  • ストレス軽減
  • 感情調整
  • 注意力向上

などの有益な効果があることが確認されていました。

しかし同時に、

トラウマとの関係については十分に語られていない

ことに気づきます。

著者は博士課程で研究を進め、
講演動画がオンラインで広まると、

ニコラスのような体験をした人たちから
多くの連絡を受けるようになります。

そこから、

「これは私だけの問題ではない」

と確信します。

瞑想によって

  • フラッシュバック
  • 解離
  • 強い恐怖
  • 圧倒的な感情

を経験する人が一定数存在していたのです。

著者が特に疑問に思ったのは、

多くの人が瞑想を始めるとき、

  • 地域の瞑想会
  • ストレス軽減プログラム
  • オンライン講座

などに参加する一方で、

指導者側がトラウマについて十分な知識を持っているとは限らない

ことでした。

トラウマ専門家
  • 神経系
  • PTSD
  • 解離
  • 心理的安全

を深く理解している

一方で、

マインドフルネス実践者
  • 注意
  • 気づき
  • 心の働き
  • 意識状態

への豊かな知見を持っている

と述べています。

両者が協力することで、トラウマサバイバーへの支援は大きく向上するだろうと考えています。

気づき(Awareness)より先に、安全(Safety)

著者は当時「感じる」ことはしていましたが、

戻る場所(支え・グラウンディング・安全基地)を
十分に持たないまま深く内側へ入っていた

だからこそ、この後の本全体では、

深く感じることよりも、
安全に感じられること

が強調されていくのだと思われます。

「マインドフルネスは良薬にもなり得るが、
使い方を誤ると傷ついた神経系を圧倒することもある」

「内側を感じること」より先に、
神経系が耐えられる範囲(Window of Tolerance)を守ることを重視しています。

言い換えると、

深く入ることより、
安全に出入りできることのほうが大事

という姿勢が、本書全体の土台になっているようです。

トラウマセンシティブ・マインドフルネスは「治療法」ではない

著者はまず、

トラウマセンシティブ・マインドフルネス(TSM)は、
既存のトラウマ治療に取って代わるものではない

と述べています。

つまり、

  • EMDR
  • SE(ソマティック・エクスペリエンシング)
  • トラウマ専門心理療法

などの代わりになるものではありません。

また、

マインドフルネスだけでトラウマを治せる

とも言っていません。

マインドフルネスの役割

著者が強調しているのは、

マインドフルネスは

トラウマ症状の調整や
安定化を支えるリソースになりうる

ということです。

具体的には、

  • 過覚醒を調整する
  • 神経系を落ち着かせる
  • 安全感を育てる
  • 安定性を高める

といった役割です。そして、

これらはトラウマ回復の初期段階において非常に重要

と述べています。

ある人に役立つものが、別の人には役立たないこともある

だからこそ、

画一的な瞑想指導ではなく、
その人の状態や神経系に合わせて
柔軟に応答する必要があると考えています。

トラウマを学ぶことは社会を見ること

トラウマ研究者の Judith Herman の言葉

トラウマを学ぶことは、人間の傷つきやすさに向き合うことであり、
同時に社会の中にある苦しみや抑圧にも向き合うことになる

著者は、

苦しみの多くが

  • 差別
  • 抑圧
  • 権力構造

など、より大きな社会システムの中で生まれることにも目を向けています。

マインドフルネスは、耐えがたいものに耐えるためではなく、苦しみに気づき、それと共にいられる力を育てる

「マインドフルネスはトラウマを治す魔法ではないが、安全と安定を育てる重要な資源になりうる」

問題を直接解決しようとする前に、
それを抱えられる器(Window of Tolerance)を育てる

という考え方です。

参考図書:Trauma-Sensitive Mindfulness: Practices for Safe and Transformative Healing (English Edition) David A. Treleaven  (著)

日本語訳もでています>>トラウマセンシティブ・マインドフルネスー安全で変容的な癒しのために デイビッド・A・トレリーヴェン (著)