ADHDを「慢性的な解離」として考えてみる

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「ADHDの症状は、壊れた脳ではなく、発達の過程で十分に支えられなかった神経系が表現している適応反応かもしれない。」

解離(dissociation)は「異常」ではなく、耐え難い体験から心を守るための適応反応であり、その延長線上にADHDを理解する視点が示されています。

「解離」も、心を守るための働き

著者はまず、解離(dissociation)には

軽いものから重いものまで幅広い段階がある

と説明します。

性的虐待を受けた女性ヘレン・ノットは、幼少期を振り返り、

  • 「感情が身体から抜けていった」
  • 「魂が身体の外にいるようだった」
  • 「自分の人生を生きている感じがしなかった」

と語ります。

彼女は「感情を十分に感じてしまうと耐えられない」ため、
感覚や感情から切り離されることで自分を守っていたのです。

著者はここで、

「障害(disorder)」と呼ばれるものは、
苦しみに耐えるために
心が編み出した「巧妙な方法」として理解できる。

と述べています。

テオレン・フルーリーの体験

続いて、元アイスホッケー選手 Theo Fleury の例が紹介されます。

10代でコーチから性的虐待を受けた彼は、

「虐待されている間、
自分は天井近くからその場面を見下ろしていた」

と回想しています。

これは典型的な解離体験です。

さらに、大人になってセラピーで当時の記憶に向き合うと、
当時切り離されていた感情が戻ってきたと語ります。

著者は、このような「感情を切り離す能力」は、
当時は苦痛から身を守る驚くべき適応能力だったと評価しています。

ADHDも「慢性的な解離」として考えられる

著者は、

慢性的に注意が外へ逸れたり、
今ここから離れてしまう状態は、

軽度の解離」として理解できる

と述べます。

ADHDでは、

  • 注意が続かない
  • 気が散りやすい
  • 落ち着いて座っていられない
  • 衝動性が高い

などが見られますが、

これらを単なる脳の欠陥ではなく

「身体や感情から
離れることで苦痛を避ける適応」

という視点から見ることができる

と提案しています。

子どもへの薬物治療への懸念

ADHDと診断された子どもが世界中で急増している。

さらに、

  • 刺激薬だけでなく、
  • 抗精神病薬まで処方される子どもが増えている

現状に懸念を示しています。

特に抗精神病薬は、

成人では脳容積の縮小との関連が報告されており、
子どもの発達への長期的影響は十分に分かっていない

と警鐘を鳴らしています。

ADHDの「遺伝率」への疑問

ADHDは「最も遺伝性の高い精神疾患」と言われることがあるものの、
その推定値(30〜50%程度)は誤解されやすく、
遺伝だけで説明できるものではない

と述べています。

「ADHDを脳内ドーパミン不足」
という単純な病気モデルではなく、

幼少期のトラウマや家庭環境への適応として理解する視点です。

ADHDは「脳の病気」とは限らない

著者は、ADHDがしばしば

「ドーパミン不足による脳の病気」

として説明されることに疑問を投げかけます。

確かにADHDではドーパミン系が関係している研究はありますが、それだけでは十分ではありません。

なぜなら、

ドーパミン系そのものが、
幼少期の環境や慢性的ストレスによって
発達の仕方を大きく左右されるからです。

トラウマは注意や集中力にも影響する

近年の研究を引用し、

ADHD症状と
幼少期のトラウマや慢性的ストレスとの関連

が数多く報告されていると述べます。

こうした逆境は、

  • ドーパミン回路の発達
  • 注意を維持する能力
  • 計画性や実行機能

などに長期的な影響を与えることが分かっています。

さらに、

  • 親のうつ病
  • 家庭内の深刻なストレス
  • 情緒的に不安定な家庭環境

なども、ADHDと診断された子どもに多く見られることが紹介されています。

「子どもの脳を治す」前に環境を見る

著者は、子どものADHD症状を見たとき、

まず脳を薬で変えようとする前に、

家庭環境や親子関係、
子どもが置かれているストレスを
理解することが重要だと主張します。

著者自身は、ADHDの子どもに出会うと、

  • 家族全体の状況を理解する
  • 親が抱えるストレスを支える
  • 家庭の安全性や安心感を高める

ことを重視してきたと述べています。

そして実際に、そのような支援を行った子どもたちは皆、

症状が「病気」としてではなく、
家庭全体の苦しみを表現しているように見えた

と振り返っています。

「病気」ではなく「発達の遅れ」と見る

著者は最後に興味深い提案をします。

もしADHDを、

「生物・心理・社会的な発達の遅れや偏り」

として見るなら、問いは変わります。

つまり、「どうやって症状を消すか」ではなく、

「この子の脳や心が
健やかに発達できる条件を、どう整えるか」

という問いになるのです。

そのためには、

  • 医師
  • 教師

が協力し、人間関係が脳を育てるという視点を大切にする必要がある、と著者は結んでいます。

  • ADHDは「ドーパミン不足」だけでは説明できない。
  • 幼少期のトラウマや慢性的ストレスは、注意機能や実行機能の発達に影響を与える。
  • 子どもの症状は、家庭全体のストレスや未解決の問題を表現している場合がある。
  • ADHDを「病気」とみなすよりも、生物・心理・社会的発達の課題として理解するほうが、支援の方向性が広がる。
  • 回復の鍵は、薬だけではなく、安全な人間関係と発達を支える環境づくりにある。

「ADHDの症状は、壊れた脳ではなく、発達の過程で十分に支えられなかった神経系が表現している適応反応かもしれない。」

ということです。著者は、症状そのものよりも、その症状がどのような環境や関係性の中で生まれたのかを見ることの重要性を強調しています。

解離は、耐え難い苦しみから自分を守るための自然な適応反応

  • 幼少期のトラウマでは、「身体や感情から切り離される」ことが生存戦略になることがある。
  • 著者はADHDの特徴の一部を、慢性的な軽度の解離として理解できる可能性を示している。
  • 子どもへの薬物治療、とくに抗精神病薬の安易な使用には慎重であるべきだと警告している。
  • ADHDを理解する際も、「脳の異常」だけでなく、その子がどんな環境で何に適応してきたのかを見ることが重要だと述べている。

「『障害』と呼ばれるものは、
傷ついた心が苦しみから身を守るために生み出した、
巧妙な適応かもしれない。」

解離やADHDを「壊れた機能」としてではなく、
神経系が生き延びるために選んだ戦略として理解する視点を提示しています。

ADHDについて興味深い研究

研究では、

  • 社会的な交流が豊かな犬は、ADHDに似た多動や衝動性が少ない。
  • 孤立して飼育された犬では、そのような行動が増える。

という結果が報告されています。

著者は、この研究を引用しながら、

社会的なつながりや安心できる環境が、
注意や行動の調整に大きく影響する

ことを示しています。

そして、

もし人間の子どもに対しても、症状だけでなく生活環境や人間関係にもっと目を向けていたなら、薬だけに頼る子どもはもっと少なかったかもしれない

と述べています。

参考図書:The Myth of Normal: Trauma, Illness, and Healing in a Toxic Culture (English Edition)  Gabor Maté MD  (著)