「なぜ体験を統合できず、トラウマ症状の中に閉じ込められてしまうのか?」という核心的な問いに入ります。
重要な要因①:恐怖(Fear)
著者はまず最初の要因として、
恐怖(fear)
を挙げています。
トラウマ体験では、
出来事そのものが終わった後も、
恐怖や感情が身体の中に残り続けることがあります。
そのため、
- 感じること自体が怖い
- 身体感覚に触れるのが怖い
- 感情に近づくのが怖い
という状態になります。それにより
身体そのものが危険な場所になる
ここで著者は
Bessel van der Kolk
の言葉を引用しています。
要旨は、
トラウマを受けた人は、自分の身体の中に安全を感じられなくなることがある
というものです。
つまり、
普通なら安心の拠り所になるはずの身体が、
恐怖や苦痛の記憶を保持する場所になってしまう。
その結果、
内側へ向かうこと自体が脅威になります。
マインドフルネスで起きること
ここで著者は重要な指摘をします。
マインドフルネスでは、
しばしば
「内側に注意を向けましょう」
と促されます。
しかしトラウマサバイバーの場合、
その瞬間に
- 恐怖
- 無力感
- フラッシュバック
- 苦痛な感覚
に直面することがあります。
それ自体が必ず悪いわけではありません。
ただ、あまりに急激に起きると圧倒されてしまいます。
RJの事例への新しい見方
RJは、姉の顔を思い浮かべ、
胃が締め付けられる感覚を感じていました。
しかしRJにとっては、
その感覚に留まること自体が難しかった。
著者はここで、
RJは弱かったのではない。
神経系が処理できる量を超えていた。
という見方を提示しています。
一般的なマインドフルネスは
- 内側へ向かう
- 感じる
- 留まる
を重視しますが、
「その人にとって内側は安全なのか?」
を問います。
「感じられない人がいる」のではなく「感じるには安全が必要」で
トラウマを抱えた人にとって、内側は必ずしも安全な場所ではない
RJに必要だったのは瞑想以上のものだった
RJは
- フラッシュバック
- 吐き気
- 強い恐怖
- 逃げ出したい衝動
を抱えていました。
しかし瞑想教師のMarcは、
トラウマについて専門的な訓練を受けていなかったため、
RJの症状が何を意味するのか十分に理解できませんでした。
その結果、
「その体験をマインドフルに観察しよう」
というアプローチが、
かえってRJを圧倒してしまった可能性があります。
第2の障害:恥(Shame)
恥は、
- 屈辱
- 自己否定
- 無価値感
- 罪悪感
と結びついた非常に強力な感情です。
恥はトラウマと一緒にやってくる
多くのトラウマサバイバーが出来事そのものだけでなく、
その出来事に対する恥も抱えていると説明します。
例として、
- 性暴力被害者が「抵抗できなかった自分」を責める
- 戦場でフリーズした兵士が「自分を弱い」と感じる
- 差別を受けた人が否定的なメッセージを内面化する
などが挙げられています。
RJの場合、恥は2つの形で現れていました。
① 姉の死への罪悪感
RJは繰り返し、姉の死に責任があるかのように感じていました。
② 瞑想ができない自分への恥
さらにRJは、
Marcの指示通りに瞑想できないことを恥じていました。
周囲は静かに座れているのに、
自分だけが苦しんでいる。
そのことがさらに自己否定を強めていました。
恥は「統合」を妨げる
恥があると人は
- 人から離れる
- 助けを求めない
- 自分を責める
- 経験を語れない
ようになると説明します。
つまり、必要な
- 関係性
- 支援
- 共感
から遠ざかってしまうのです。
トラウマを単なる「強いネガティブ感情」と考えてはいけない
トラウマは、
もっと深いレベルの
- 生存反応
- 安全感
- 安定性
に関わる問題。
トラウマ回復では
「何を感じるか」だけでなく、
その体験に対してどんな自己評価をしているか
も非常に重要だということです。
なぜマインドフルネスだけでは足りないのか
RJは、
- フラッシュバック
- 吐き気
- 恐怖
- 罪悪感
- 恥
を抱えていました。
その状態で、
ただ
「その体験を観察してみましょう」
だけでは十分ではありませんでした。
なぜなら、RJは恐怖だけでなく、
「自分はダメだ」という深い恥を抱えていたからです。
RJには「ガイド付き瞑想以上のものが必要だった」
特に必要だったのは、
安全な関係性
です。
トラウマサバイバーはしばしば
- 信頼
- 安全感
- 自己価値感
を失っているため、
回復には人との安全なつながりが重要
だと述べています。
トラウマからの回復は、
関係性の中で起きることが多い
安全な関係の中では、
- 信頼
- 安全
- 許し
- 自己受容
が少しずつ育まれるからです。
実践者へのメッセージ
トラウマセンシティブな実践者に向けて、
① 恐怖(fear)
トラウマ反応としての恐怖
② 恥(shame)
自己否定や自己嫌悪
この2つを尊重するよう勧めています。
トラウマを単なる感情問題と考えない
トラウマは単なる強いネガティブ感情ではない
トラウマは、
生存そのものに関わる反応
です。
つまり、
- 安全
- 生き残り
- 神経系の安定
という深いレベルの問題です。
そのため、
トラウマを理解せずにマインドフルネスを行うと、
再トラウマ化につながる可能性があります。
恐怖と恥を抱えた人に必要なのは、
「もっと頑張って感じること」ではなく、
「安全な関係性の中で支えられること」である。
つまり、
「一人で感じる」より前に「誰かと安全につながる」がある。
トラウマは感情の問題ではなく、安全の問題である
という一文は、この本全体の重要なメッセージの一つだと思います。
参考図書:Trauma-Sensitive Mindfulness: Practices for Safe and Transformative Healing (English Edition) David A. Treleaven (著)
日本語訳もでています>>トラウマセンシティブ・マインドフルネスー安全で変容的な癒しのために デイビッド・A・トレリーヴェン (著)

