「It’s not your fault(君のせいじゃない)」

book

もし、多くの人が同じような苦しみを抱えているのなら、その原因は個人だけではなく、文化そのものにあるのではないか。

  • 依存
  • ADHD
  • うつ
  • 双極性障害
  • 統合失調症
  • 摂食障害

などを、

「異常」ではなく
トラウマや人生への適応

としてこの本は読み解いています。

双極性障害の事例

双極性障害(躁うつ病)の躁状態も、
「意味のない異常」ではなく、
その人の人生経験に照らすと理解できる

適応反応であるという視点です。

カテリーナという女性のケース

26歳の頃、彼女は初めて重い躁病エピソードを経験します。

躁状態では、

  • 自分は世界を救える
  • 世界に芸術を取り戻せる
  • 自分には非常に大きな力がある

と確信するようになります。

その結果、一週間ほとんど眠らず、精神科病院へ入院しました。

薬によって症状は落ち着きましたが、
著者はそこで別の問いを投げかけます。

「もし、その妄想には何らかの意味があるとしたら?」

最初、彼女は

  • 「家族を破滅させてしまった」
  • 「私は世界を救える」

という、一見まったく逆の二つの考えを語ります。

しかし著者は、

どちらにも「自分が世界を左右するほど大きな力を持っている」という共通点がある

ことを指摘します。

カテリーナ自身もすぐに、

「どちらも、自分がとても強大な存在だという感覚ですね。」

と気づきます。

幼少期とのつながり

そこから話は幼少期へ向かいます。

カテリーナは、

7歳頃、

  • 両親は激しく口論を繰り返し、
  • 父親は母親に怒鳴り、
  • 母親も叫び返し、
  • 父親は娘であるカテリーナに泣きつくこともあった

と振り返ります。

つまり彼女は、

子どもでありながら

「家族全体の感情を背負わされる立場

に置かれていました。

著者は、このような状況では、

子どもは

「自分が家族を救わなければならない」

という万能感や過剰な責任感を育てやすいと考えます。

その幼少期の構造が、大人になって躁状態の

  • 「世界を救える」
  • 「自分には特別な力がある」

という体験にもつながっている可能性を示唆しています。

一見すると現実離れした妄想であっても、
その人の人生を丁寧にたどると、
そこには驚くほど「筋の通った意味」が見えてくることがある。

双極性障害や摂食障害などの精神症状も、
その人の人生をたどると「意味のある適応」として理解できる

という考えが、研究と臨床経験を通してさらに深められています。

躁状態は幼少期の役割とつながっていた

彼女の

  • 「世界を救わなければならない」
  • 「自分には特別な力がある」

という躁状態の体験を、単なる妄想ではなく、
幼い頃から家族を支えようとしてきた役割の延長

として理解しています。

幼少期、彼女は両親の感情的混乱の中で育ち、

  • 親を守る責任を感じる
  • 家族をまとめなければならない
  • 自分の感情を抑え込む

という適応を身につけました。

著者は、

これは子どもが背負うべきではない重荷だったと述べています。

また、愛着理論の創始者 John Bowlby の考えを引用し、

親子の役割が逆転すること
(子どもが親を支える立場になること)は、
子どもの発達に大きな影響を与える

と説明しています。

「双極性障害と幼少期トラウマ」についての研究

さらに2013年の研究が紹介されます。

この研究では、双極性障害の人において、

  • 幼少期のトラウマ
  • 特に感情的虐待や性的虐待

が多いほど、症状が重くなる傾向が確認されました。

著者は、大きな虐待だけでなく、

  • 感情的な無視
  • 親の感情を背負わされること
  • 安全感の欠如

といった目立たない心の傷も重要であると強調しています。

摂食障害も「意味」を持つ

著者は、拒食症(anorexia)についても、
「遺伝的な病気」とだけ考えるべきではないと述べます。

ACE(逆境的小児期体験)研究で知られる
ヴィンセント・フェリッティ博士の言葉を紹介します。

フェリッティ博士は、肥満治療に携わる中で、

「患者の体重は減らせても、その状態を維持できない」

ことに疑問を持ちました。

そして患者たちの人生を丁寧に聞いていくと、

「私たちは食べ物を詰め込んでいるのではない。

痛みを押し込めているのだ。」

という事実に気づいたと語っています。

著者はこれを摂食障害全般にも当てはめ、

食べること・食べないことは、
苦痛を調整するための適応反応

として理解できる場合が多いと述べています。

最後には、拒食症の女性の例を挙げ、
彼女の完璧主義も、生まれつきの性格ではなく、

安心して生きるために身につけた適応

として理解できる可能性を示しています。

症状だけでなく、性格特性(完璧主義など)も、
その人が生き延びるために身につけた適応として理解できる。

  • 双極性障害の妄想や躁状態も、幼少期の役割や責任感とのつながりから理解できることがある。
  • 親子の役割逆転(親を支える子ども)は、心の発達に深い影響を与える。
  • 双極性障害と幼少期トラウマには、多くの研究で関連が示されている。
  • 摂食障害も、「食べ物の問題」ではなく、痛みを調整するための適応として理解できる。
  • 完璧主義でさえ、生まれつきではなく環境への適応として形成されることがある。

ということです。

「何が悪いのか」ではなく、
「その反応は何から身を守り、何に適応してきたのか」

という視点から精神症状や行動を読み解いています。

摂食障害は「コントロール」を取り戻すための適応

アンドレアという女性の体験が紹介されています。

17歳頃から拒食症になり、

  • 食べるものを細かく計量する
  • 自分の食事を厳密に管理する
  • 体重は100ポンド(約45kg)まで減少
  • 7年間、生理が止まる

という状態になりました。

しかし彼女は振り返って、

「それはコントロール感を与えてくれた。
そして、自分を少し好きになれた。」

と語っています。

著者は、これは単なる「食べ物の問題」ではなく、

情緒的に不安定な家庭で育ち、
自分ではどうにもできない状況の中で、
唯一コントロールできるものが「自分の身体」だった

ことを意味すると説明します。

また、後に母親もインタビューに応じ、

自身の激しいストレスや夫婦関係の問題が
家庭に影響していたことを認めています。

さらに、摂食障害を専門とする
心理学者 ジュリー・T・アン の言葉が紹介されます。

彼女によれば、多くの摂食障害の背景には、

  • コントロールの欠如
  • アイデンティティ(自分が誰か)の欠如
  • 自己価値感の欠如

という「三つの欠如」が共通して見られます。

つまり、拒食症や過食症は、

感情的に生き延びるために編み出された適応

なのです。

そして著者は、

本当に問うべきなのは、
「これはどこから来たのか」
「この症状は何を解決しようとしているのか」という問いである。

とまとめています。

『グッド・ウィル・ハンティング』の名場面

映画 Good Will Hunting の有名な場面

Robin Williams演じる心理療法士ショーンが、
傷ついた青年ウィル(演:Matt Damon)に向かって繰り返し語る言葉です。

「It’s not your fault(君のせいじゃない)」

最初は抵抗していたウィルも、
この言葉を何度も聞くうちに涙を流し、ショーンに抱きつきます。

著者は、この場面が人々の心を打つ理由は、

単なる慰めではなく、

「あなたの苦しみは、生まれつき壊れているからでも、遺伝子のせいでもない」

という深い理解が込められているからだと述べます。

著者は、この言葉の意味をさらに広げ、

「そして、それは個人的な問題だけでもない(and it’s not personal)」

と付け加えたいと述べます。

つまり、私たちが抱える依存や精神的苦しみ、さまざまな「症状」は、

  • 個人の欠陥でも、
  • 意志の弱さでも、
  • 単なる脳の故障でもなく、

家族の歴史、社会のあり方、
文化そのものの影響の中で生まれてきたものだということです。

そのため、

症状を個人だけの問題として扱うのではなく、
より大きな視点(the bigger picture)から理解する必要がある

と著者は強調します。

「行動上の問題から重い精神疾患に至るまで、それは誰かの欠陥ではない。脳や遺伝子のせいでもない。それは、癒えていない傷の表現であり、そこには意味がある。」

  • 摂食障害は「食べ物の問題」ではなく、コントロール・自己価値・アイデンティティを取り戻そうとする適応である。
  • 多くの症状の背景には、「これは何を解決しようとしているのか」という問いが重要である。
  • 『グッド・ウィル・ハンティング』の「君のせいじゃない」という言葉は、本書全体のメッセージを象徴している。
  • 精神症状は欠陥ではなく、癒えていない傷が表現されたものであり、その人の人生の文脈の中で理解すると意味を持つ。

「行動の問題も、精神疾患も、その人が壊れている証拠ではない。それは、まだ癒えていない傷が語っている物語であり、その症状には意味がある。」

参考図書:The Myth of Normal: Trauma, Illness, and Healing in a Toxic Culture (English Edition)  Gabor Maté MD  (著)