依存の神経生物学的な仕組み、特にドーパミンとオピオイド系という
2つの脳内システムが重要な役割を果たしていることが解説されています。
あらゆる依存にはドーパミンが関わっている
幼少期の逆境や慢性的なストレスは、
脳の発達そのものを変化させると説明します。
ストレスの多い環境で育つと、
- ストレスへの反応システム
- 意欲や動機づけ(インセンティブ・モチベーション)に関わる脳の回路
の発達に影響が及び、将来的に依存しやすい状態が形成されることがあります。
精神科医でトラウマ研究者のBruce D. Perryの研究も引用され、
ドーパミン受容体の数や密度には、
幼少期の環境が影響を与えることが紹介されています。
ドーパミンとは何か
著者は、「ドラッグを意味する俗語 dope は、実はすべての依存に当てはまる」と述べます。
なぜなら、
薬物依存だけでなく行動依存も含め、
あらゆる依存にはドーパミンが関わっているからです。
ドーパミンは、
- 意欲
- 探求
- 「これを手に入れたい」という動機
を生み出す神経伝達物質です。
著者は、飢えたネズミの例を挙げます。
ドーパミンが極端に不足すると、
目の前に食べ物があっても食べようとせず、
餓死してしまうほど、
「行動を起こす力」そのものが失われるのです。
つまり、依存とは快楽そのものではなく、
本来、人とのつながりや達成感から得られるはずの脳内化学物質を、
外部の物質や行動によって人工的に得ようとする試み
それは本物じゃない(ほんとうに欲しいものはそれじゃない)
だから、たくさん欲しくなる=満たされないのかもしれないですね。
ポルノ依存も同じ仕組み
性依存研究者のZachary Altiによれば、
ポルノ画像を見るたびに
脳ではドーパミンが放出されます。
しかし現実の性的な親密さでは
通常一度だけ起こるドーパミンの上昇が、
ポルノでは次々と新しい刺激を見続けられるため、
何度も繰り返されるのです。
この「終わりなく新しい刺激が得られる仕組み」が、強い依存性につながります。
さらに著者は、スマートフォンやアプリ、ポルノ産業は、
こうした脳の報酬系を利用することで利益を得ていると指摘します。
オピオイド系の役割
神経科学者Jaak Pankseppの研究によれば、
脳内の**内因性オピオイド
(エンドルフィンなど)は、
- 養育される安心感
- 人との親密さ
- 愛着
- 社会的なつながり
と深く関係しています。
つまり、オピオイド系薬物が与える「温かさ」は単なる快感ではなく、
本来は人との安全なつながりの中で育まれる感覚を人工的に生み出しているのです。
依存とはトラウマによって十分に育たなかった
脳の報酬系や愛着システムを補う適応反応
- 幼少期のストレスやトラウマは、ドーパミン系を含む脳の発達に長期的な影響を与える。
- ドーパミンは「快楽」ではなく、意欲や追求行動を生み出す神経伝達物質である。
- ポルノやSNSなども、繰り返しドーパミンを刺激することで依存を生みやすい。
- オピオイド系は安心・愛着・温もりに関わる神経システムであり、依存はその感覚を人工的に補おうとする試みでもある。
依存の背景にあるのは、単なる快楽の追求ではなく、
「人とのつながり」を支える脳のシステムの発達不足であることが説明されています。
オキシトシンやエンドルフィンなど、
愛着や安心感に関わる脳内システム
これらのシステムは、生まれつき十分に備わるものではなく、
幼い頃に、養育者との安全で応答的な関係の中で育まれていくものです。
神経科学者・心理学者の ルイス・コゾリーノ の研究を引用し、
- 子どもが情緒的に応答してくれる養育者と顔を合わせて関わること
- 抱っこやスキンシップなど、安心できる触れ合い
によって、
- オキシトシン
- プロラクチン
- エンドルフィン
- ドーパミン
といった神経化学物質が適切に働き、
健全な脳の発達が促されると説明しています。
逆に、このような安全な愛着体験が不足すると、これらのシステムの発達も妨げられます。
アラニス・モリセットの例
シンガーソングライターの
Alanis Morissette の言葉が紹介されます。
彼女は、有名になることへの強い執着について、
「みんなが自分を見てくれる。
注目されることで、愛されている感覚を追い求めていた。」
と振り返っています。
つまり、名声そのものが欲しかったのではなく、
本当に求めていたのは、
「愛されたい」
「見てもらいたい」
という深い欲求だったのです。
「恋愛依存」も同じ構造
実際には人は「愛」に依存しているのではなく、
愛によって埋めようとしている
「欠乏感」に依存している
のではないかと述べます。
そして、この構造は恋愛だけではありません。
- 仕事中毒
- ギャンブル
- 買い物
- 過食
- あらゆる強迫的な行動
も同じで、
「何かが足りない」という内側の感覚を、一時的に埋めようとする試み
依存の根底には愛着システムの発達と、人とのつながりへの普遍的な欲求がある
- 愛着や安心感に関わる脳のシステムは、幼少期の安全な人間関係の中で発達する。
- その発達が十分でないと、人は外部の対象によってその欠乏を補おうとしやすくなる。
- 名声、恋愛、仕事、買い物などへの依存も、
「愛されたい」「つながりたい」という根源的な欲求が背景にある場合がある。 - 依存とは、欠けているものを埋めようとする人間の適応であり、本当に求めているのは対象そのものではなく、「つながり」や「愛」、「安心感」である
参考図書:The Myth of Normal: Trauma, Illness, and Healing in a Toxic Culture (English Edition) Gabor Maté MD (著)

