3つの脳の働きから
- 扁桃体(危険警報)
- 海馬(時間と文脈)
- 前頭前野(理性的評価)
トラウマの話を説明していきます。
海馬の機能不全(Hippocampal Failure)
ティムが強盗にあった日、
身体には
- アドレナリン
- コルチゾール
などのストレスホルモンが大量に放出されました。
その結果、
海馬の働きが一時的に低下します。
すると何が起きるのか。
海馬は本来、「出来事は始まり、中間、終わりがある」
という時間情報を整理する役割を持っています。
しかし海馬がうまく働けないと、、、
理性脳は
「強盗はもう終わった」
という情報を十分に受け取れません。
一方で扁桃体は、
ずっと警報を鳴らし続けます。
なぜ症状が続くのか
著者は、ティムが苦しみ続けた理由をこう説明します。
理性脳は「終わった」と理解できない。
扁桃体は「まだ危険だ」と警報を出し続ける。
すると神経系全体が、まるで事件が
現在進行形であるかのように反応してしまう。
これが、フラッシュバックやPTSD症状の背景にあるメカニズムだと説明されています。
進化的には合理的
これは故障ではなく、進化的には意味のある仕組みだと言います。
危険な状況では、
ゆっくり考えるより
素早く反応した方が生存率が高い。
だから脳は、
まず扁桃体を優先するように作られている。
ただし通常は、
危険が終われば海馬が回復し、
理性脳へ「もう終わったよ」と伝えます。
ところが統合がうまくいかないと、この更新が起きない。
私たちは簡単に
「マインドフルになりましょう」
と言う。
しかしトラウマサバイバーは、すでに
- バラバラになった感情
- イメージ
- 身体感覚
を抱えていることが多い。そのため、
「トラウマ関連の感覚に注意を向けましょう」と促すと、
かえって再活性化してしまうことがある。
つまり、
支えや調整が先に必要
なのです。
著者は、強盗から1か月後に
ティムと面談します。
ティムが部屋に入ってきた時、
著者はすぐに気づきます。
- 筋肉が緊張している
- 瞳孔が開いている
- 顔色が青白い
つまり、
まだ交感神経優位の警戒状態
著者はまず、
深い呼吸を促します。
すると徐々に、
- 顔色が戻る
- アイコンタクトが増える
など、
腹側迷走神経系(社会的関与システム)が戻り始めます。
著者はすぐに瞑想指導をしません。
まず、
- 瞑想中に何が起きたのか
- 身体はどう反応したのか
- 強盗後にどんな変化があったのか
を丁寧に聞きます。
ティムは涙を流しながら、
これまで一人で抱えてきたことを語ります。
話を聞いた著者は、意外な提案をします。
「 しばらく瞑想をやめましょう。」
なぜなら、
瞑想がティムの神経系を落ち着かせるどころか、
トラウマ反応をさらに活性化していたからです。
著者はまず、
神経系が十分に処理を進め、
安全に戻れるようになることを優先したのです。
トラウマ状態では、「もっと気づくこと」よりも、
「安全に感じられる状態へ戻ること」が先である。
著者が最初にやったのは、
- 深い洞察
- トラウマ探索
- 瞑想の継続
ではありません。
まず
- 呼吸
- 顔色
- アイコンタクト
- 神経系の状態
を整えることでした。つまり、
気づきの前に調整
探索の前に安全
です。
脳科学は急速に発展しているものの、
マインドフルネスとトラウマの関係については、
まだ完全には解明されていません
ただし、
いくつか有力な知見はある。
前頭前野が厚くなる
fMRIを用いたSara Lazarの研究で、
瞑想実践者は前頭前野(Prefrontal Cortex)の特定領域が厚い傾向が見つかりました
前頭前野は、
- 注意のコントロール
- 判断
- 自己調整
- 感情の調節
に関わります。
著者は、
マインドフルネスによって
前頭前野がより活性化し、
感情脳(扁桃体)に飲み込まれにくくなる可能性を示しています。
マインドフルネスとは何か
著者はマインドフルネスを
思考や感情そのものになるのではなく、
それらを観察できる能力
として説明しています。つまり、
怒りそのものになるのではなく、
「ああ、怒りが起きているな」と見られる能力です。
著者は
「瞑想を続けろ」ではなく
「瞑想が役立っているかを見極めろ」
と言っている点です。
そして回復の出発点として、
まず
- 自分を責めないこと
- 神経系の仕組みを理解すること
を置いています。
上記のエピソードにでてきたティムも、自分を責めるところから始まり、神経系を理解することで初めて回復の土台ができていったのです。
トラウマ回復では、まず神経系の理解と安全が先であり、その上でマインドフルネスは前頭前野の働きを支え、感情に飲み込まれにくくする可能性がある。
参考図書:Trauma-Sensitive Mindfulness: Practices for Safe and Transformative Healing (English Edition) David A. Treleaven (著)
日本語訳もでています>>トラウマセンシティブ・マインドフルネスー安全で変容的な癒しのために デイビッド・A・トレリーヴェン (著)
