ここでは、
なぜトラウマサバイバーにとって
「耐性の窓」を理解することが重要なのか?
というテーマについてのお話しです。
耐性の窓とは
過覚醒と低覚醒の間にある最適なゾーン
過覚醒(Hyperarousal)
- 感覚過敏
- 感情反応が強い
- 過警戒
- 侵入的イメージ(フラッシュバックなど)
- 思考の混乱
低覚醒(Hypoarousal)
- 感覚の減少
- 感情の麻痺
- 思考力低下
- 身体活動の低下
窓の中
- 感じられる
- 考えられる
- 学べる
- 人と関われる
状態になります。
認知機能との関係
耐性の窓は
認知機能(cognitive processing)
とも深く関係していると言います。
過覚醒では
思考がバラバラになります。
- 集中できない
- 頭が真っ白
- 判断力低下
- 混乱
低覚醒では
そもそも思考機能が落ちます。
- 考えられない
- ぼんやりする
- 注意が続かない
つまり、どちらの極端な状態でも
学習や自己観察が難しくなるのです
日常生活への影響
著者は、トラウマサバイバーの多くが日常生活で
- 計画
- 判断
- 整理整頓
- スケジュール管理
などの実行機能に苦労すると述べています。
これは能力不足ではなく、
神経系が耐性の窓から外れていることが原因の場合がある。
なぜ瞑想がうまくいかないのか
トラウマ後ストレスでは
感情脳が脅威信号を出し続けているため、
理性脳が十分働けないことがあると説明しています。
その結果、耐性の窓の外にいる人にとって、
通常の瞑想指示である
呼吸に注意を向けましょう 今ここに集中しましょう
が、思った以上に難しくなります。
どれだけ努力しても、
耐性の窓の外にいる人は、
基本的な瞑想指示に従うことすら困難な場合がある
耐性の窓の外では、感じる力だけでなく、考える力や集中する力も低下する。
まず必要なのは
もっと頑張って集中することではなく、耐性の窓へ戻ること。
だからトラウマセンシティブなアプローチでは、
「集中できないなら努力不足」とは見ません。
むしろ、
今、神経系は窓の中にいるのか?
それとも過覚醒や低覚醒に傾いているのか?
を最初に確認します。
気づきや集中はゴールではなく、
まず神経系が「ちょうどよいゾーン」に戻った結果として自然に起きるもの
覚醒ゾーンとポリヴェーガル理論は対応している
ざっくり言うと、
- 耐性の窓=腹側迷走神経(VVC)
- 過覚醒=交感神経優位
- 低覚醒=背側迷走神経優位
です。
犬に追いかけられる例
道を歩いていると、
突然、大きな犬が吠えながら追いかけてきたとします。
その瞬間、あなたは考えるより先に走り出します。
ここでは交感神経が働いています。
心拍が上がり、
筋肉に血液が送られ、
逃げる準備が整います。
無事に逃げ切れたら
犬から逃げ切ると、交感神経で生じたエネルギーは放出されます。
そして神経系は
再び 耐性の窓へ戻ります。
すると、腹側迷走神経(VVC)が再び働き始めます。
例えば、
友人に会って
「さっき犬に追いかけられたんだよ!」
と話せるようになります。
つまり、
- つながる
- 話す
- 振り返る
- 学習する
が可能になります。
トラウマでは何が起きるのか
PTSDやトラウマ後ストレスでは、この
耐性の窓=腹側迷走神経(VVC)への復帰がうまくいかなくなる
と説明しています。
つまり、
危険が終わった後も、
神経系が「まだ危険だ」と感じ続ける。
結果として、
交感神経に留まる
- 過警戒
- 不安
- 緊張
- 焦り
あるいは
背側迷走神経に落ちる
- 無感覚
- 解離
- シャットダウン
が続くようになります。
耐性の窓=腹側迷走神経(VVC)の役割
腹側迷走神経(VVC)は
単に「安心する神経」ではなく、
自律神経全体を調整するシステム
だということです。
つまり、
腹側迷走神経(VVC)が十分機能している時、
私たちは
- 興奮しすぎず
- 落ち込みすぎず
- 人とつながり
- 学び
- 回復する
ことができます。
回復とは
- 交感神経をなくすこと
- 背側迷走神経をなくすこと
ではありません。
そうではなく、
必要な時に使い、
終わったら
腹側迷走神経(耐性の窓)へ戻れること
です。
なぜ耐性の窓から外れると自己調整が難しくなるのか
耐性の窓とは単に「落ち着いている状態」ではなく、
人とつながりながら自己調整できる状態
なぜ窓から外れるのか
著者は犬に追いかけられる例を再び使っています。
通常なら、
危険が去ったあと、
私たちは周囲を見渡して
「もう大丈夫だ」
と確認できます。
すると副交感神経が働き、
心拍やコルチゾールが下がり、休息状態へ戻ります。
しかし、PTSDやトラウマ後ストレスでは、ここがうまくいきません。
危険が終わっているのに、
神経系が「まだ危険だ」と判断し続けるのです。
トラウマとは「危険が終わった後も、神経系が耐性の窓へ戻れなくなった状態」である。
自己調整能力の低下
耐性の窓の外にいる時、
人は単に苦しいだけではありません。
過覚醒なら
- 侵入的イメージ
- トラウマ感覚
- 思考の混乱
が起きる。
低覚醒なら
- 無感覚
- 解離
- 認知機能低下
が起きる。
そのため、瞑想を頑張ろうとしても、かえって苦しくなることがあります。
ブルックの例
娘を亡くしたブルックは、
瞑想リトリート初日は何とか安定していました。
しかし次第に
- 強烈な悲しみ
- イメージ
- 身体反応
が増大していきます。
そして耐性の窓の外へ出てしまいました。
さらに、
グループの設定上、十分な社会的サポートがありませんでした。
そのため、自己調整はますます困難になります。
著者は、彼女が制御不能のスパイラルへ入ってしまったと説明しています。
社会的関与システムを失うと
影響を受けるのは神経系だけではありません。
私たちの
- 他者との関係
- 自分との関係
も変化します。
トラウマ後に
人格が変わったように見える人がいることを指摘しています。
例えば、
以前は穏やかだった人が
突然
- 攻撃的になる
- 人を遠ざける
ことがあります。
これは人格の問題というより、
社会的関与システムが機能しなくなった結果として理解できる場合がある、一言でまとめると、
耐性の窓の外では、自己調整だけでなく、人とのつながりを感じる力も低下する。
社会的関与システム(つながり)が失われると、自己調整も難しくなる
人は危険状態になると、
他者とのつながりを支える
Social Engagement System
(社会的関与システム)
へアクセスしにくくなります。
その結果、
- 人を避ける
- 孤立する
- 親密さを失う
ことが起きやすくなります。
自分との関係にも影響する
トラウマは他者との関係だけでなく、
自分との関係
にも影響します。
Daniel Siegel
の考えが紹介されています。
マインドフルネスが働く神経回路は、
人とのつながりを支える神経回路と深く関係していると述べています。
つまり、
他者とつながる力
↓
自分とつながる力
↓
マインドフルネス
は別々ではなく、
かなり重なったシステムだということです。
なぜ「窓の外」ではマインドフルネスが難しいのか
もし
- 過覚醒
- フリーズ
- 解離
に入っていると、
Social Engagement System
(社会的関与システム) が十分機能しません。
すると、
呼吸であれ、
身体感覚であれ、
思考であれ、
観察対象と安定して
関わることが難しくなります。
つまり、
耐性の窓の外では
マインドフルネスそのものが成立しにくくなる。
耐性の窓の中にいる時ほど、
- 気づき
- 学習
- 自己調整
が起こりやすいと述べています。
逆に、
闘争か逃走か = 交感神経優位
フリーズ = 背側迷走神経優位
状態では、マインドフルネスを支える脳領域が機能しにくくなる。
自分のサインを学ぶ
本人が
- 自分の神経系
- 自分のパターン
- 自分のサイン
を知ることも重要
著者は例として、
耐性の窓から外れ始めるサインを挙げています。
過覚醒のサイン
- 顎が固くなる
- 思考が繰り返し始める
- 呼吸が浅くなる
低覚醒のサイン
- 感覚が鈍くなる
- 無感覚になる
- やる気がなくなる
こうしたサインを知ることで、
早めに調整できるようになります。
マインドフル・ゲージ
「ゲージ(計器)」を持つことを勧めています。
つまり、
今の自分の状態を確認する指標です。
ブルックのケース
著者はブルックと一緒に、
いくつかのゲージを探しました。
例えば、
呼吸
が最も分かりやすいゲージになりました。
ブルックは気づきます。
胸が開いていて、楽に呼吸できる時は、
比較的「耐性の窓の中」にいる。
逆に、
胸が締まり、呼吸が浅くなる時は、
過覚醒へ近づいている。
日常で使う
ブルックが日常の中で
頻繁に呼吸をチェックするようになった
例えば夫から
「散歩に行こうか?」
と誘われた時。
まず呼吸を確認する。
胸が開いていて楽なら、
その選択は自分にとって良い可能性が高い。
逆に、
胸が締まり、呼吸が苦しくなるなら、
今は休む方がよいかもしれない。
こうしてブルックは、
少しずつ
内側のガイド(inner guidance)
を取り戻していきました。
気づきとは深い瞑想状態に入ることではなく、
「今の自分の状態を読み取る力」
ある選択肢を考えたときに
- 呼吸が楽になる
- 身体が開く
なら、
その方向が自分に合っている可能性がある。
逆に、
- 胸が締まる
- 身体が固まる
なら、
今はその方向が負担かもしれない。
著者は、
トラウマサバイバーは身体感覚とのつながりを失いやすいため、
自分なりの「ゲージ」を見つけることが、自己調整力の回復につながると言っています。
参考図書:Trauma-Sensitive Mindfulness: Practices for Safe and Transformative Healing (English Edition) David A. Treleaven (著)
日本語訳もでています>>トラウマセンシティブ・マインドフルネスー安全で変容的な癒しのために デイビッド・A・トレリーヴェン (著)
