仏教とMBSR(マインドフルネスストレス低減法)の両方に共通する重要な考え方
Pain Paradox(痛みのパラドックス)
を紹介します。
痛みのパラドックス
痛みを避けるほど苦しくなる
人間には
- 逃げる
- 否認する
- 抵抗する
- 押し込める
という自然な傾向があると言います。
しかし、
皮肉なことに、
その「回避そのもの」が
苦しみを長引かせる場合があります。
引用されている有名な言葉は、
What we resist, persists.
(抵抗するものは持続する)
です。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の革新性は、
病気や痛みを「消そうとする」のではなく、
「まず向き合う」という発想でした。
これは当時の医療モデルとはかなり違っていました
当時の医療は
- 痛みをなくす
- 症状を抑える
- 問題を取り除く
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)は
- 今起きていることを見る
- 痛みとの関係を変える
- 反応パターンを観察する
というアプローチです。
慢性疼痛患者での成果
初期のMBSR(マインドフルネスストレス低減法)研究について説明されています。
対象は、
従来治療では改善しなかった
慢性疼痛患者
でした。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の創始者であるKabat-Zinn は患者たちに、逆説的な提案をします。
痛みを追い払おうとするのではなく、
「今、起きている感覚に注意を向けてみてください」
すると興味深い変化が起きます
患者たちは、痛みそのものよりも、
痛みに対する関係性
が変わり始めました。
患者たちは、痛みが
固定された塊ではなく、変化し続ける体験
であることを発見したのです。
例えば、以前は
「この痛みはずっと続く」と感じていた人が、
- 強まる
- 弱まる
- 移動する
- 変化する
という「変化し続ける体験」であることに気づきます。
この気づきは多くの患者にとって大きな転換点でした。
痛みは消えていなくても、
痛みに支配される感じが減った。
そして一部の人にとっては、それが
長い間忘れていた「自由への扉」のように感じられたそうです。
苦しみは痛みそのものだけでなく、
「痛みを避け続けること」によって強まる場合がある。
MBSRの成功によって生まれた誤解
- 慢性疼痛
- 不安
- ストレス
などに効果を示しました。そのため多くの人が、
「マインドフルネスは苦しみに効く」
と考えるようになりました。
PTSDにも同じことが言えるのか?
しかし著者は重要な疑問を投げかけます。
慢性疼痛で有効だったからといって、
同じ方法がそのまま
トラウマ的ストレス(PTSD)にも有効とは限らない。
なぜなら、
トラウマによる苦痛は
慢性疼痛とは性質が異なるからです。
回避は悪ではなく「合理的な生存戦略」
一般的なマインドフルネスでは、
「回避(avoidance)」は問題視されます。
しかし、トラウマの文脈では、
回避は単なる悪い習慣ではありません。
回避は、
その人が生き延びるために身につけた
合理的な生存戦略
でもあります。
例えば、
- 危険な記憶から距離を取る
- 感情を麻痺させる
- 身体感覚を切り離す
といった反応は、
当時の状況では必要だった可能性があります。
だから、慎重さが必要
そのため、単純に
「もっと感じましょう」
「もっと注意を向けましょう」
と言うことは危険になり得ると著者は主張します。
トラウマを抱えた人に対して、
十分なガイドや安全策なしに
内側へ深く向かわせることは、
渦(vortex)に巻き込むようなものだ
と警告しています。
マーガレットのイヴォンヌへの働きかけがうまくいかなかった2つのポイント
1つ目の間違い
イヴォンヌの
- 人種差別体験
- 社会的背景
を十分理解していなかったこと。
2つ目の間違い
イヴォンヌが不安になり始めた時、
「もっとそこに注意を向けてみましょう」
と促したこと。
マーガレットは、
マインドフルネス経験から
注意を向けることは良いこと
と考えていました。
しかし著者は、
トラウマ文脈では必ずしもそうではないと言います。
トラウマ的ストレスを抱える人を、
深い苦痛の中へさらに押し込むことほど、無責任なことはない
もし私たちが
- トラウマ
- マインドフルネス
の関係を本当に理解したいなら、
まず 脳と身体 を理解する必要がある
著者が繰り返し伝えているのは、
「回避をやめろ」ではありません。
むしろ「回避には理由がある」です。
いきなり深く入るのではなく、
まず
- 支え
- 安全
- 関係性
- 戻れる場所
を整える。その上で少しずつ感じる。
トラウマセンシティブな実践とは、
「もっと感じろ」ではなく、
「安全に感じられる条件を整えよう」である。
参考図書:Trauma-Sensitive Mindfulness: Practices for Safe and Transformative Healing (English Edition) David A. Treleaven (著)
日本語訳もでています>>トラウマセンシティブ・マインドフルネスー安全で変容的な癒しのために デイビッド・A・トレリーヴェン (著)
