すべてのトラウマはストレスだが、すべてのストレスがトラウマではない

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ストレス研究の先駆者である
Hans Selyeの定義

ストレスとは?

身体に加えられるあらゆる要求に対する非特異的反応

です。つまり、

ストレス自体は悪いものではありません。

興味深いのは、

神経系は「良いストレス」と「悪いストレス」を区別していない

例えば、

  • 自転車に乗る
  • 車を運転する
  • 性的な親密さ
  • 妊娠
  • 昇進

などもストレスになります。

私たちは普段、

ストレス=悪いもの

と思いがちですが、

身体から見ると

変化や適応を求められる出来事全般がストレス

なのです。

トラウマ的ストレスとは

しかし、

トラウマ的ストレスは
「通常のストレスとは異なります。」

ストレスの中でも最も強烈な形態

これは、

  • 生命の危険
  • 深刻な傷害
  • 性的暴力
  • 圧倒的な無力感

などを伴う体験によって生じます。

トラウマは一回だけとは限らない

トラウマは

  • 戦争
  • レイプ
  • 事故

のような単発の出来事だけではないと言います。

例えば、

  • 家庭内暴力
  • 慢性的な虐待
  • 抑圧
  • 差別

のように、繰り返し起こる体験もトラウマになり得ます。

トラウマ的出来事とは、

  • 実際の死
  • 死の脅威
  • 重傷
  • 性的暴力

への曝露と定義されています。

それは

  • 自分が体験する
  • 目撃する
  • 身近な人が被害に遭う
  • 繰り返し詳細に接する

場合も含まれます。

「すべてのトラウマはストレスだが、すべてのストレスがトラウマではない」

ストレスそのものが悪いわけではない
問題は、神経系が処理できる範囲を超えてしまった時です。

トラウマ体験を消化できる人もいる

強い出来事を経験しても、
全員が長期的なトラウマ症状を抱えるわけではない

人によっては、

  • 思考
  • 感情
  • 記憶

を時間をかけて統合し、体験を消化していくことができます。

その場合、

出来事は辛い記憶として残っても、
人生全体を支配するものにはなりません。

トラウマ後ストレスとは

一方で、

出来事が十分に統合されない場合、
症状がその後も続くことがあります。

著者はこれを

Posttraumatic Stress(トラウマ後ストレス)

と呼んでいます。

特徴として、

  • フラッシュバック
  • 身体感覚の再現
  • 突然の感情反応
  • 過覚醒
  • 悪夢

などが挙げられています。

トラウマ後ストレスでは、過去が現在に入り込み続ける

出来事は終わっているのに、

神経系の一部は
まだ終わったと認識できていない。

そのため、

同じ反応が何度も再生されます。

時間が解決しない場合もある

よく時間が癒してくれるとも言われますが、

トラウマ後ストレスの場合、
必ずしもそうではないと述べています。

むしろ、

トラウマの痕跡が身体と心に残り続け、
何年経っても再活性化することがあります。

「見えない労働」

著者はここで興味深い表現を使います。

トラウマを抱える人は、
周囲から見えないところで

“invisible labor(見えない労働)”

をしている、と。

つまり、

日常生活の中で

  • 感情を抑える
  • 記憶を避ける
  • 不安を管理する
  • なんとか普通に振る舞う

ために大量のエネルギーを使っています。

しかし周囲はそれに気づきません。

二次的トラウマ

トラウマは

  • 自分が体験するだけでなく
  • 目撃することでも起きる

と説明しています。

例として、

警察による暴力の映像を撮影した人が、

その後も

  • 悪夢
  • 侵入的記憶

に苦しんだケースが紹介されています。

トラウマとは「終わった出来事」ではなく
「終われない体験」になることがある。

特に印象的なのは、

神経系は「終わった」と理解していない

という視点です。

SEやポリヴェーガル理論でも、

トラウマは

「過去の出来事」というより、
「現在も続いている未完了の生存反応」

だから回復とは、

過去を思い出すことだけではなく、

神経系が

「もう終わったよ」

「今は安全だよ」

と体験的に学び直していくプロセス

PTSDはトラウマの一部

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の特徴として、

  • フラッシュバック
  • 悪夢
  • 回避
  • ネガティブな感情や認知
  • 過覚醒(警戒状態)

などが挙げられています。

研究では、トラウマを経験した人の
約20%前後がPTSDを発症するとされています。

しかし重要なのは、

トラウマを経験した人すべてがPTSDになるわけではない

ということです。

トラウマ ≠ PTSD

著者はここで、

トラウマセンシティブ・マインドフルネスの目的は
PTSDの診断をすることではない、

と強調しています。

むしろ、

  • トラウマの広い影響を理解する
  • 症状に気づく
  • 適切に応答する

ことが大切だと言います。

つまり、

PTSDという診断名がつくかどうかより、
神経系にどんな影響が残っているか

を重視しています

統合できるかどうか

著者は、

トラウマを理解するには、

出来事そのものより
その体験を統合できたか

を見る必要があると言います。

引用されている Pat Ogden は、

トラウマを

「統合できないほど圧倒的な体験」

と表現しています。

スープの比喩

面白い例えも出てきます。

野菜や肉やハーブを鍋に入れて煮込むと、
それぞれの材料がまとまり、
ひとつのスープになります。

これが統合です。

一方でトラウマ体験では、

経験がうまく結びつかず、
バラバラのまま残ることがあります。

ダン・シーゲルの統合理論

ここで Daniel J. Siegel が紹介されます。

シーゲルは統合を

「異なる部分同士のつながり(linkage)」

として説明しています。

つまり健康な状態とは、

感情
身体
記憶
思考

が互いにつながりながら働いている状態です。

トラウマとは「何が起きたか」だけでなく、
「その体験を統合できたかどうか」で理解できる。

このページから見えてくるトラウマの定義は、

「怖い出来事」ではなく、

『経験が自分の中で消化・統合されずに残っている状態』

にかなり近いものです。つまり

「トラウマとは統合の失敗(disintegration)である」

つまり統合とは、

「異なる部分がつながり、ひとつの機能する全体になること」

です。

トラウマ後ストレスは統合の崩れを生み出す

統合が崩れると、心の中では

  • 思考
  • 感情
  • 記憶

がバラバラになります。

身体では

  • 自分の感覚がわからなくなる
  • 身体の声を聞けなくなる

人間関係では

  • 他人から孤立する
  • 信頼できなくなる

心身のつながりでは

  • 頭では理解している
  • 身体は安全を感じない

という分断が起きます。


RJの例

姉を失ったRJはその体験を統合できませんでした。

そのため、

  • 感情が予測不能になる
  • 人から距離を取る
  • 姉のイメージが突然侵入する

状態になっていました。

被害者の証言

前に登場した性的暴行事件の被害女性も、
法廷で次のような状態を語っています。

  • 人と話せない
  • 食べられない
  • 眠れない
  • 孤立する

そして、

怒りっぽくなり

自分を責め

疲れ果て

世界から切り離された

ように感じていたそうです。

これも統合の崩れとして説明されています。

  • 自己感覚
  • 身体感覚
  • 人とのつながり

が分断されるなら、それもトラウマ的な影響として理解できるのです。

トラウマとは、人生の様々なつながりが分断されてしまった状態である。

参考図書:Trauma-Sensitive Mindfulness: Practices for Safe and Transformative Healing (English Edition) David A. Treleaven  (著)