人が身につけた才能や成功の陰には「幼少期に生き延びるための適応戦略」が隠れていることがある。

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俳優・コメディアンのロビン・ウィリアムズの晩年について振り返ります。

2014年、彼は自ら命を絶ちました。当時は周囲から愛され、人を笑わせる明るい人物として知られていましたが、その内面では長年深い苦しみを抱えていました。

著者は、ウィリアムズが晩年に患っていたレビー小体型認知症は、確かに自殺に影響した可能性はあるものの、

「彼の苦しみそのものは、それ以前から続いていた」

と指摘します。

実際、ウィリアムズは若い頃から、

  • 深い孤独
  • 抑うつ
  • 自殺についての思い
  • アルコールやコカインへの依存

を抱えていました。

2010年のインタビューでウィリアムズ自身は、

「自殺を実行する勇気がなかったことを後悔していた」

と語っており、自殺念慮は病気だけでは説明できないほど以前から存在していました。

幼少期に身につけた「道化」の役割

著者は、ロビン・ウィリアムズの苦しみの源を幼少期に見いだします。

彼自身の言葉によれば、

  • 子どもの頃の友達は想像上の存在だった。
  • 母親は感情的に距離があり、
  • 父親は「怖い存在」だった。

そのような環境の中で、彼は空想上のキャラクターを次々と生み出し、人を笑わせることで孤独を埋めようとしていました。

漫画的なキャラクターやユーモアは、単なる才能ではなく、

母親とのつながりを得るため、生き延びるために身につけた適応だったのです。

しかし、その戦略は大人になって大成功をもたらす一方で、

本当の感情を抑え込み、「人を楽しませる自分」という役割から抜け出せなくなる

という側面も持っていました。

著者はこれを、

「幼少期には贈り物だったものが、やがて牢獄にもなった」

という趣旨で表現しています。

依存も「自分から逃れるため」のものだった

ウィリアムズのコカイン使用について触れられます。

彼は薬物によって、

  • 過剰なエネルギーから解放され、
  • 絶えず動き続けなければならない感覚

から休息を得ようとしていました。

彼自身はその状態を、

「活動しながら夢遊病をしているようだった(sleepwalking with activity)」

と表現しています。

つまり、依存もまた快楽ではなく、

「自分自身の内面から逃れるため」の適応として理解できると著者は述べています。

幼少期の孤独や愛着の問題

  • ロビン・ウィリアムズの苦しみは、晩年の神経疾患だけでは説明できず、幼少期の孤独や愛着の問題に根ざしていた。
  • 人を笑わせる才能は、母親とのつながりを得るために身につけた生存戦略でもあった。
  • 幼少期には役立った適応が、大人になると「役割」や「仮面」となり、本来の感情を抑え込むことがある。
  • コカイン依存も、「快楽」ではなく、絶えず何かを演じ続けなければならない苦しみから一時的に逃れる手段だった。

人が身につけた才能や成功の陰には、
幼少期に生き延びるための適応戦略が隠れていることがある。

統合失調症への新しい視点

「統合失調症(schizophrenia)も、
固定された脳の病気というより、
耐え難い体験に対する
『自己の分裂・切り離し(self-fragmentation)』
という適応として理解できる」

つまり、

  • うつ
  • 躁うつ的な気分変動
  • 依存
  • 自殺念慮

を、バラバラの「病気」としてではなく、

幼少期の孤独や愛着の傷から
一貫して生まれた適応反応

として理解できていたなら、人生は違っていたかもしれない

という著者の思いが語られています。

著者は

統合失調症は遺伝性の脳疾患だ

という一般的な考え方に疑問を投げかけます。

現在までの大規模な遺伝学研究では、

  • 「統合失調症遺伝子」と呼べるものは発見されていない。
  • 関連するとされる遺伝子の影響は一つひとつ非常に小さく、
  • その多くはADHDや自閉スペクトラム症など他の状態とも共通している。

つまり、

統合失調症だけを説明する
特異的な遺伝子は確認されていない

と説明しています。

「統合失調症」という名前への疑問

著者は、

schizophrenia(統合失調症)という名称そのものにも注目します。

語源はギリシャ語で、

  • schizo = 分裂する
  • phren = 心・精神

つまり「心が分裂する」という意味です。

ここで著者は、

「なぜ人は、自分自身から分裂しなければならなかったのだろう?」

という問いを立てます。

自己の分裂は防衛反応

著者の答えは明確です。

耐え難い体験にさらされたとき、

人は

  • 感情を切り離す
  • 現実感を失う
  • 自己の一部を分離する

ことで生き延びようとします。

著者はこれを

「自己の分裂(self-fragmentation)は、防衛反応の一つである」

と述べます。

さらに、

現在の耐え難い苦しみから逃れるために、自己を切り離すこと(splitting from the present)は、トラウマに対する瞬間的な自己防衛である。

と説明しています。

つまり、

「分裂」は異常な故障ではなく、
生き延びるために脳と心が生み出した適応なのです。

精神病(サイコーシス)の理解

精神病状態では、

通常は統合されて働くはずの

  • 思考
  • 感情
  • 現実感

が切り離され、

人は「今ここ」から離れた状態になります。

しかし著者は、

それもまた単なる異常ではなく、

あまりにも耐え難い現実から
自分を守るための極限的な適応

として理解できる可能性があると述べています。

「自己の分裂は、耐え難い体験を生き延びるために心が生み出した、防衛であり適応である。」

  • 統合失調症を説明する特異的な遺伝子は現在も見つかっていない。
  • 「自己の分裂」は、耐え難い現実から自分を守るための防衛反応として理解できる。
  • 精神病状態も、「壊れた脳」ではなく、極限状況に適応しようとした心と神経系の働きという視点から見ることができる。

参考図書:The Myth of Normal: Trauma, Illness, and Healing in a Toxic Culture (English Edition)  Gabor Maté MD  (著)