「情動調律・共同調整・自己調整」から考える、感情と安心感の育ち方

癒し

情動調律・共同調整・自己調整から考える、感情と安心感の育ち方

誰かに気持ちをわかってもらったとき、

ふっと身体の力が抜けたり、
安心したりした経験はありませんか?

反対に……

悲しいときに「そんなことで泣かないの」
怒っているときに「落ち着いて」と言われて、
かえって苦しくなったことはないでしょうか。

そこには、

「気持ちをわかってもらうこと」と
「気持ちを落ち着かせること」の違い

があるのかもしれません。

心理学には、この違いを理解するための3つの概念があります。

情動調律(Affect Attunement)
共同調整・協働調整(Co-regulation)
自己調整(Self-regulation) 

今回は、これらの違いと関係性を、幼少期の発達や自律神経、そして大人になってからの癒しという観点から整理してみたいと思います。

情動調律とは?

― 感情を「わかってもらう」体験

情動調律(Affect Attunement)は、

子どもが感じている感情の質や勢い、リズムなどに、
養育者が心を合わせるように応答することを指します。

例えば、赤ちゃんが嬉しそうに「キャッ!」と声を上げたとき、お母さんも弾むような声や表情で応える。子どもが悲しそうに泣いているとき、その気持ちに寄り添うような声や表情で応える。

ここで重要なのは、

相手とまったく同じ表情や行動をすることではありません。

例えば、子どもが嬉しそうに両手を勢いよく広げたとき、大人も同じ動きをするのではなく、その勢いに合わせて「わあっ!」と明るい声で応える。子どもがゆっくりと何かに触れているときには、その動きに合わせるように、ゆっくりと優しい声で応える。

このように、

表現方法は違っていても、感情の強さやリズム、動きの変化などが響き合うこと

を、情動調律の重要な特徴として捉えました。

こうしたやりとりを通じて、

子どもは「自分が感じていることを、誰かも感じ取ってくれている」という体験を重ねていきます。

つまり、情動調律の中心にあるのは「感情の体験を共有すること」なのです。

共同調整・協働調整とは?

― 誰かと一緒に落ち着いていく

共同調整(Co-regulation)は、

他者との関わりを通じて、
感情や興奮状態、行動などが調整されていくプロセスです。

例えば、子どもが怖がって泣いているとき。

養育者が子どもの様子を見ながら、
穏やかな声で話しかけたり、
安心できる距離でそばにいたりする。

すると、子どもの緊張や興奮が少しずつ和らぐことがあります。

このように、まだ一人では扱いきれない感情を、
他者との関係の中で調整していくのが共同調整です。

ただし、共同調整は単に「大人が子どもを落ち着かせる」という一方通行の働きではありません。

子どもの反応によって大人の関わり方も変化し、双方が影響し合いながら進んでいくプロセスです。

また、調整とは必ずしも興奮を下げることだけではありません。

嬉しい気持ちを一緒に楽しむことも、
強すぎる刺激から少し距離を取ることも、
その場に合った感情の扱い方につながります。

自己調整とは?

― 自分で感情との付き合い方を選べるようになる

自己調整(Self-regulation)は、

自分自身の感情や注意、行動などを、状況に応じて調整する働きです。

例えば、

  • 不安になったとき、自分が安心できる場所に移動する
  • 怒りを感じたとき、少し距離を取ってから話す
  • 身体が緊張していることに気づき、楽な姿勢を探す
  • 刺激が多すぎると感じたら、静かな環境で休む

これらも、自己調整の一例として考えられます。

ここで大切なのは、

自己調整とは、感情をなくしたり、
いつも穏やかでいられるようにすることではないという点です。

悲しいときには悲しみを感じ、
怒っているときには怒りを感じる。

そのうえで、感情に圧倒されすぎず、
自分に合った関わり方を選べるようになる。

感情を抑え込むことだけが、自己調整ではないのです。

4.3つの違いを整理すると

概念中心となる働き
情動調律(Attunement)感情の質や動きを感じ取り、体験を共有する
共同調整(Co-regulation)他者との関係を通して、感情や興奮状態を調整する
自己調整(Self-regulation)自分自身の感情や反応を調整する

この3つは、互いに深く関係しています。

例えば、

子どもが泣いているとき、養育者がその悲しみを感じ取り、応答する。そこから安心できるやりとりが生まれ、子どもの興奮が落ち着いていく。

そして、そうした体験を繰り返す中で、子ども自身も少しずつ感情を調整する力を育んでいく。

発達の流れとしては、

感情をわかってもらう体験
→ 関係の中で調整する体験
→ 自分で調整する力の発達

と整理すると、イメージしやすいかもしれません。

ただし、これは理解のために単純化した図式です。実際には3つの働きは重なり合い、自己調整の芽生えも乳児期から見られます。

また、大人になって自己調整ができるようになったからといって、他者との共同調整が不要になるわけでもありません。

私たちは大人になってからも、人との関係の中で安心したり、感情を落ち着かせたりしています。

5.いつも気持ちが通じ合う必要はない ― 「修復」の大切さ

ここで、もう一つ紹介したいのが、
発達心理学者エドワード・トロニックらが研究してきた、

親子の相互調整という視点です。

親子のやりとりでは、いつも気持ちがぴったり合っているわけではありません。

子どもが遊びたいのに、大人が疲れている。
子どもが静かにしたいのに、大人が話しかける。
こうした「すれ違い」は、ごく自然に起こります。

そして重要なのは、

すれ違いが起きないことではなく、
そこから再びつながり直せることです。

心理学では、こうした過程を「修復(Repair)」と呼びます。

調律 → 不調律 → 修復

このプロセスを繰り返すことも、子どもの発達にとって大切だと考えられています。

つまり、子どもの感情をいつも完璧に理解し、いつも適切に対応する必要があるわけではないのです。

関係がずれても、またつながり直せる。

そうした体験そのものが、安心できる関係の土台になっていくのかもしれません。

6.幼少期の情動調律と、大人になってからの感情

幼少期に、感情を受け止めてもらう経験が十分に得られなかった場合、その後の感情の扱い方に影響が生じる可能性があります。

例えば、

  • 自分の気持ちがわかりにくかったり
  • 不快感を一人で抱え込みやすかったり
  • 他者の反応に敏感になったりすることがあります。

ただし、ここで気をつけたいことがあります。

現在の感情反応を、すべて幼少期の情動調律の問題として説明することはできません。

もちろん、過去の経験が影響している場合もあるでしょう。

しかし、心理学の理論に自分を当てはめすぎることで、「自分の反応には何か問題があるのではないか」と、新たな苦しみを生んでしまうこともあります。心理学は、自分を問題のある存在として判定するためではなく、自分への理解を広げるために活用したいものです。

7.自律神経と「安心感」の関係

感情は、頭の中だけで起きているものではありません。

  • 不安なときに胸がドキドキしたり
  • 怒ったときに身体が熱くなったり
  • 安心したときに呼吸や筋肉の緊張が変化したり。

感情の体験には、さまざまな身体反応が伴います。

情動調律や共同調整を考えるとき、こうした身体の働きにも目を向けることができます。

例えば、誰かが穏やかにそばにいてくれることで、気持ちだけでなく、身体の緊張も和らぐことがあります。

ただし、情動調律・共同調整・自己調整という3つの概念が、それぞれ特定の自律神経の状態と一対一で対応するわけではありません。

感情の共有と、感情や身体状態の調整は、関連しながらも異なる働きとして捉えることが大切です。

8.大人になってからも「調律し直す」ことはできる?

幼少期の経験は大切ですが、

その後の人生でも、感情との付き合い方は変化していきます。

  • 安心できる人との関係の中で、自分の気持ちを表現したり、理解してもらったりする。
  • 他者との関わりによって、落ち着きを取り戻す体験をする。
  • 自分の身体感覚や心地よさに気づき、自分自身で状態を調整する練習を重ねる。

こうした体験は、大人になってからの感情調整にも役立つ可能性があります。

例えば、不安や緊張を感じたとき。

すぐに原因を分析したり、
その感情をなくそうとしたりするのではなく、

  • まずは足裏や座面など、身体が支えられている感覚に気づいてみる。
  • 無理のない範囲で内側の感覚に触れ、自分にとって心地よい方向を探していく。

これは厳密には、他者との情動調律そのものではありません。むしろ、自分の状態に気づき、環境や注意の向け方を工夫していく「自己調整の取り組み」として理解できます。

また、安心できる人と一緒に行う場合には「共同調整の要素」も関わってくるでしょう。

こうした実践と情動調律の研究をどう結びつけられるかは、今後さらに探究していきたいテーマです。

まとめ ― 感情は、正すものではなく、まず気づくもの

今回ご紹介した3つの概念を、あらためて整理すると、

情動調律は、気持ちを共有すること。

共同調整は、関係の中で状態を調整すること。

自己調整は、自分で感情との付き合い方を選んでいくこと。

そして、これらに共通しているのは、

感情を「悪いもの」として扱う必要はないということです。

イライラしてもいい。
悲しくてもいい。
不安になってもいい。

その感情を感じながら、必要に応じて誰かの支えを借りたり、自分の心地よさを探したりしてもいい。

私たちが目指すのは、いつも穏やかで、何にも反応しない人間になることではないのかもしれません。

さまざまな感情が生まれても、その感情とともにいられること。

そして、必要なときには安心できる場所や関係に戻ってこられること。

そのような柔軟さを育てていくことが、癒しの一つの方向性なのではないかと思います。

※本記事は発達心理学・情動調整研究をもとにした解説と、SHAlicaとしての実践的な考察を組み合わせたものです。個人の心理状態の診断や、特定のセルフケア法の治療効果を示すものではありません。